宅配ボックスの登場
1945年昭和20年第二次世界大戦は終結し日本全土に焼け野原が広がります。
そして、復興する日本は深刻な住宅不足に見舞われ、RC造の共同住宅が数多く建設され各地に団地が形成されました。それまで平面(平屋)に住んでいた日本人は層を積み重ねた立体(集合住宅)に住むようになるのです。
単位面積当たりの人口が増え、都市部の人口は増えていきました。
宅急便のスタートは1976年、当初の配達エリアは関東圏一円のみでしたが、高速道路の発達とともにエリアは日本全国に広がっていきました。
そして、宅配ボックスは1980年代に生まれます。
多くの住宅デベロッパーによって建てられたマンションにおいて、配達時の届け先のお客様の不在問題が生じてきたためです。
当時は駐在する管理人が代理で受け取ることが、管理会社のサービスもしくは業務として行われていましたが、物流網の整備に伴ってその物量は増え、代理受け取りの方法や受け取った荷物の置き場の負担が大きくなってしまいました。
そこで考案されたのが宅配ボックスだったのです。
2021年5月現在、沈静化の見通しの立たない新型コロナウイルス感染予防のため、国、地方自治体が三密回避を推奨しています。
外出できない消費者によりEC市場の規模は拡大したものの、直接手渡しをしていた従来の宅配の方式が敬遠され、宅配ボックスは『非対面』『非接触』を実現する有用な手段として認識され、増えてきました。
マンションにおける宅配ボックスの種類
現在、新築マンションでは宅配ボックスの標準装備が当たり前となっています。
マンションにおける据え付けの宅配ボックスの種類には、『機械方式』と『コンピューター方式』があります。
機械方式
機械方式が一番最初に考案されたシンプルなものです。
暗証番号で開閉できるロッカー形式です。
宅配業者が配送先に、ロッカーの番号と設定した暗証番号を所定の用紙に記入し不在先の郵便受けに投函し、それを見て受取主は間接的に受取ることが出来ます。
コンピューター方式
コンピューター方式には、設置された宅配ボックスだけで受け取りまでの一連の作業が完結できる自主管理方式と、宅配ボックス管理会社がオンラインで管理を行うオンライン管理方式があります。
機械方式・コンピューター方式それぞれのメリット・デメリット
現在標準装備されるようになったマンションの宅配ボックスにはそれぞれメリット、デメリットがあります。
機械方式のメリット・デメリット
電気を使わず人の手を使うことによるメリット・デメリットがあります。
ユーザー | 宅配業者 |
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メリット | |
・設置費用が比較的安い ・操作が簡単 ・電気代が不要(停電時も作動する) | ・不在票に間違えた記載さえしなければ再配達をしなくてよい |
デメリット | |
・安全性が低い(盗難の可能性あり) ・自主管理なので荷物の長期滞留の可能性がある | ・不在票への記入ミスのあった際の対応と責任 ・盗難の際の対応と責任 ・滞留荷物による配達不可 |
コンピューター方式のメリット・デメリット
時代の流れとともに生活に入り込んできたコンピューターにより、ユーザーはストレスの無いサービスを受けることが可能となりました。
そして、宅配業者は再配達というロスを減らすことが出来ます。
しかし、便利さと引き換えに相応の費用負担がかかります。
近年頻発する自然災害による停電での使用不能時にも備えなければならないでしょう。
ユーザー | 宅配業者 |
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自主管理方式のメリット | |
・安全性が高い(盗難を防げる) ・導入費用、維持管理費用がオンラインに比べると安い | ・盗難時のトラブルが減る |
自主管理方式のデメリット | |
・荷物の長期滞留のため利用不能のケースも出る ・管理の手間が必要 ・電気代がかかる(停電時は作動しない) | ・長期滞留荷物で預けることが出来ないケースも出る(持ち帰りとなる) |
オンライン管理方式のメリット | |
・安全性が高い(盗難防止) ・荷物の長期滞留の管理が可能となる ・トラブル時の対応が早い | ・長期滞留荷物で預けることが出来ないケースは少なくなる ・不在票記入ミス等の対応がオンラインで対応してもらえる |
オンライン管理方式のデメリット | |
・設置費用・委託管理費用が高くなる ・電気代がかかる(停電時は作動しない) |
この一覧表を上から順番ご覧いただくとわかりますが、機器が進化するほど宅配業者のデメリットは少なくなっています。
これまでの配送のトラブルの原因は人対人のやりとりで起きたことであり、それらが宅配ボックスの導入によって軽減されると宅配業者の負担も少なくなってくると考えられます。
宅配業者の今までの問題の全てがすぐに解消されるわけはなく、時代のニーズにあわせて、また新たに生まれてくる課題に対処していかねばなりません。
次なる課題はB to Cにより物流量が増えることにより増えた再配達によるラストワンマイルへの負担の増大です。
このことは時代の要求である『脱炭素』、『働き方改革』への取り組みとも深く関わります。
そして、新型コロナウイルスの蔓延は『非対面』、『非接触』で宅配業者に新たな負担を課し、ユーザーもそのための対策を取らねばならないようになりました。
社会貢献という観点からの宅配ボックス 『脱炭素社会』と『働き方改革』
現在我々が直近で考え努力しなければならないことは、『脱炭素社会』と『働き方改革』の実現です。
2050年に向けての『脱炭素社会実現』は我々が地球の未来のために成し遂げなければならないことです。
『働き方改革』は人口減少と労働力不足の解消に対応するため、行わなければならない喫緊の課題です。
そして、この二つの課題はCSR「企業の社会的責任」として投資家から高い評価の対象とされ、宅配業者も他の企業と同様に強く意識しなければなりません。
SDGs(持続可能な開発目標)にもこの『脱炭素社会の実現』と『働き方改革』は含まれます。
一見、直接関係ないように見えますが、宅配の再配達はこの二つの課題の原因となっているのです。
宅配における全配達件数のうち約一割が不在などの理由による再配達となります。
無駄に走らせるトラックは二酸化炭素を排出し、宅配業者の労働時間を長くします。
それに対応すべく、宅配ボックスについて様々な取り組みがなされています。
- 東京都荒川区による宅配ボックス設置への助成金
東京都荒川区は区民や区内事業者が宅配ボックスを設置する費用の一部を助成する制度を始めた。宅配ドライバーが再配達で何度も行き来することを避けて、車が排出する二酸化炭素の排出量削減を目指す。対面での受け取りをなくして新型コロナウイルス対策にもつなげる。
宅配ボックスの設置費用の5割を助成し、集合住宅を含めて1つの建物につき申請は1つまでとする。設置工事をする事業者が区内事業者だった場合は5万円、区外の場合は3万円を上限とする。荒川区は地球温暖化対策実行計画を策定しており、2027年度までに区内の温暖化ガスの排出量を00年度比24%減にする目標を掲げている。- 電柱への宅配ボックス設置の試験的な取り組み
電柱吊宅配ボックスサービスは、電柱の特性を活用した全国初のサービスです。宅配ボックスには、設置場所や電源確保などの課題がありますが、電柱を設置場所とすることでそれらの課題が解決でき、近年、急速に増加している宅配物の再配達を低減させることに繋がると考えています。
- パナソニック株式会社 ハウジングシステム事業部宅配ボックスの売上の一部を、一般社団法人東京都トラック協会へ寄付
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、国内の宅配便配送個数が増加するなか、トラック運送事業者では感染予防対策の取り組みが必要になるなど負担が増加しています。そうした中、パナソニックが2020年4月から5月にかけて実施した「宅配便受け取りに関する意識調査」では、「配送量が増えた物流・配送関係者の皆さんへエールをお願いします。」という自由回答設問に回答総数の約87%に当たる745 件もの応援・感謝のメッセージが集まり、多くの消費者が運送事業者への感謝の想いを抱いていることがわかりました。そうした背景を踏まえ、パナソニックは宅配ボックスを展開するメーカーとしてトラック運送事業者を支援するため今回の取り組みを実施します。
引用元:東京都トラック協会へ宅配ボックス「COMBO(コンボ)」シリーズの売上の一部を寄付する取り組みを開始 Panasonic Newsroom Japan 2020年9月15日
そして宅配ボックスは『簡易宅配ボックス』の登場により、戸建住宅や宅配ボックス未整備の集合住宅(マンション)にも広がっています。
Yper株式会社のOKIPPA(オキッパ)はスマートフォンアプリと連動し、配送状況の確認、「置き配保険」など様々な機能を有効にしています。
そして国交省が集合住宅共用部への置き配容認したことがOKIPPAの追い風になっています。
袋に詰め、ドアノブとつなぐだけの簡易式で料金も安く、損害保険まで完備されており、普及のための完成度は高いのではないでしょうか。
以上のように宅配ボックスの普及拡大がまだまだ先の見えない新型コロナウイルスの感染予防のため、そして日本が2050年を目標に掲げた『脱炭素社会実現』とこれから迫り来る超高齢化社会に対応するための『働き方改革』の実現のため活躍しています。
そして宅配ボックスは今後、AIの技術とともにまだまだ進化を続けていくことと予想されます。
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