トラックのEV化で出来ることとは?現状を踏まえて解説

電気自動車ECOイメージトピックス

パリ協定による取り組みである、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑えるという具体的な努力にもとづいて世界が今同時に動き出しています。
日本における二酸化炭素の総排出量のうち、運輸部門における貨物自動車の占める割合は全部門(家庭部門まで含めて)の約7%です。
日本中、世界中の産業部門のみならず、家庭部門まで含めたすべての人々が問題意識を持って、解決に向かわなければどうにもならないほどの瀬戸際に私たちは立たされているのです。

参考:国土交通省 運輸部門における二酸化炭素排出量

2020年10月、菅首相の所信表明演説において、日本での2050年に向けてのカーボンニュートラルの方針が世界に向けて発信されました。
そして、2021年1月、施策方針演説で2035年までに新車販売でEV(電気自動車)100%を実現すると発表されました。
この新車販売にはトラックは含まれておらず、このことは大量の荷を長距離移動させるトラックのEV化(電気自動車化)の難しさを暗示していると言えるのかも知れません。
『脱炭素』にむけて、世界の動き、各自動車メーカー、大手宅配業者などの動きを見て、その可能性とその取り組みの先に生まれてくることを考えてみたいと思います。

各国におけるEVトラック

EU加盟のほとんどの国が2030年にガソリン車やディーゼル車、プラグインハイブリッド車の新車販売禁止を公表しています。
EUには現在620万台の中型および大型トラックが存在しており、97.8%がディーゼルエンジン車です。
2030年の大型トラック向けのCO2排出量削減目標である「2019年比30%減」達成のためには、約20万台のEVトラックを稼働させる必要があります。

参考:日経クロステック 欧州では2030年までに20万台のEVトラックが必要

ボルボは2021年、欧州市場に向けて大型EVトラックの発売を開始し、2022年に量産体制に入る予定です。

アメリカでは、ダイムラートラックが2021年4月EV大型トラックの北米での受注を開始し、2022年後半に生産開始予定です。
そして、テスラがEVトラック『セミ』のテスト走行の結果を発表し、連続走行805km の記録を公表しています。
このテスラ『セミ』の走行結果は積荷の無い平坦な道路でのテストランの結果です。
これが実際に積載し、公道を走り、風雨、積雪、炎天下の走行を行った際に同様な結果が出るのかは確認できていません。

そして、普通自動車ではありますが、ゼネラルモータースではミシガン州に新型EV工場に4000万ドル(40億円)の投資、今後5年間でEVと自動運転に270億円の投資を予定しています。
バイデン大統領自らEV化の計画推進を強調しておりその機運を高め、産業振興にも力を入れています。

国内におけるEVトラック(ラストワンマイルで活躍するEVトラック)

電気自動車充電

現在、日本でこの脱炭素社会実現と同様に深刻な問題の一つに人口減少に伴う労働人口の減少があります。
労働人口の減少が引き起こす労働時間の長期化は、労働者の健康を害し『働き方改革』へとなりました。
そして、運送業界のその働き手不足に負担をかけているのが、皆さんもご存じのBtoCの増大からくる『再配達』問題です。

新型コロナ禍でEコマース(電子商取引)が増大し、BtoC(企業と消費者の直接取引)が激増しました。
それにもかかわらず、新型コロナ禍の感染予防から『非対面』『非接触』が要求され、運送業者の配達先への対応はデリケートさを求められ、それが原因で再配達となるものも出てきました。
もともと多い再配達は全体量の増大と新型コロナ感染予防対応のために、さらに増えてしまいました。
そのたびにまたトラックで配達に行き二酸化炭素を排出するとともに、労働時間を長期化してしまっているのです。

その解決策の一つが、このBtoCにおける『ラストワンマイル』を走る小型EVトラックです。
EVトラックの弱点は一度の充電で走れる距離が長くないことと、バッテリーが大きいことです。
この走行距離での弱点を逆手にとって『ラストワンマイル』対策に重点をおき、小型EVトラックを各社はこぞって開発しています。

日野自動車が今年4月に小型EV トラック「日野デュトロ Z EV」を発表しました。2022年初夏に市場投入予定です。
この「日野デュトロ Z EV」はEVトラックの弱点を活用し、まさしくラストワンマイル輸送をコンセプトに世に送り出される小型EVトラックです。
継続走行距離は100㎞以上としています。
トラック内部は運転席から荷室までワンフロアとなっており、小口配送の小さな荷物も運転席を降りて荷室の扉の開け閉めせずとも持って降りることが可能です。バッテリー以外のモーター等の電動ユニットを座席下部、キャブ下に納めることによって、運転席から荷室をワンフロアに、しかも床高40cmを確保できるようになりました。
作業者の負担を減らし『働き方改革』にも一躍担う小型EVトラックです。
なお、この「日野デュトロ Z EV」は日野自動車が単独で開発しています。

参考:日野が来夏に投入する小型EVトラックの実力

いすゞはUDトラックスを傘下にし、2022年に小型トラック(EV)を量産開始するとしています。

参考:日本経済新聞 トラックの電動化、どう実現? いすゞ自動車の片山社長

三菱ふそうトラック・バスオーストラリアにおいて電気小型トラック「eキャンター(Canter)」の投入開始を発表しています。

参考:三菱ふそう、EV小型トラック「eキャンター」をオーストラリア市場に初投入 海外展開を推進

グループ傘下にある日野自動車がEV小型トラック「日野デュトロ Z EV」を発表しているものの、トヨタ本体から「EVトラック」やEVの情報は漏れ伝わってきません。
FC(水素燃料電池)のことばかりです。
トヨタと日野はコンビニ3社(ローソン、ファミリーマート、セブンイレブン)とFC小型トラックの導入を目指した取り組みを開始しています。

参考:トヨタと日野、コンビニ3社とFC小型トラックの導入を目指した取り組みを開始

他社がEV中心に新型車両を開発するなか、そのモーターを駆動させる電気を発電するために二酸化炭素を排出してしまうEVよりも環境性能と走行距離の伸びる輸送効率の高いFCに目を向けているのかも知れません。
プラグインハイブリッド車『プリオス』を世に送り出し、数年間の鳴かず飛ばずの期間を乗り越えて、世界の『プリオス』にまで育て上げたトヨタの過去を彷彿させられないこともありません。

大手物流会社の動き

電気自動車ステーション

大手物流会社は他業種大手と同様にCSR(企業の社会的責任)を重視し、会社の経営計画を立てていかなければなりません。
『企業の社会的責任』とは環境問題から社会貢献、従業員の働き方まで広範囲に問われる責任です。
そしてこれを指標として投資家は投資のための判断を下します。
環境問題も従業員の働き方改革の解決にも役立つのがこのEVトラックです。

佐川急便は2030年までに中国製広西汽車集団の軽バン7,200台を太陽光パネル付きEVに変えていきます。
それを「2050年のカーボン・ニュートラルに向けた施策の一つ」と説明しています。

参考:ロイター 佐川急便、宅配車両7200台を中国製EVへ 軽自動車から順次転換

ヤマト運輸すでに首都圏でEVでの配達を開始しています。

参考:ヤマト運輸株式会社 日本初、宅配に特化した小型商用EVトラックを導入

日本郵便三菱ミニキャブ ミーブを首都圏で配達用に使用しています。

参考:三菱自動車工業株式会社 日本郵便の集配用車両に、三菱自動車の電気自動車を納入

物流各社でも動きがあるのはラストワンマイルに使う普通車、軽車両ばかりです。
物流の根幹ともなる大型車両による輸送にはエネルギー給油基地などの社会的インフラや高額な車両価格などの問題が残されています。

トラックのEV化が成し遂げるもの

トラックイメージ

18世紀後半の産業革命は石炭の利用によるエネルギー革命でした。
蒸気機関はそれまで人力、牛馬の力に頼って来た生産力や輸送力を数十倍、数百倍押し上げて私たちの生活を向上させました。
その結果、豊かさをつかんだのは人間だけでした。
蒸気機関が発明されて、たった300年で地球は病み、傷つきました。

私たちの子孫と地球上で生きるすべての者ために修復に努力していかなければなりません。
2016年発効のパリ協定の内容を少し詳しく見ておきたいと思います。
パリ協定では、2020年以降の気候変動に関する枠組みを取り決めています。
パリ協定が目指す世界の平均気温上昇を産業革命前より1.5℃に抑えるには、大気中に排出される温室効果ガスを、2050年には世界全体で実質ゼロにする必要があります。
各国はそれに向かって細分化した目標を作り、努力としての取り組みを始めているのです。

そしてその取り組みの一つがトラックのEV化なのです。
冒頭に述べた日本のカーボンニュートラル2050年達成のための方策の一つなのです。

加えて、つい最近公表された『成長戦略実行計画』の素案では、これからの成長の基盤には脱炭素化やデジタル化のために必要な政策を示しています。
2030年までに燃料電池車(FCV)用の水素ステーションを現在の約150基から1000基に増やす計画を出しており、電気自動車(EV)向けの急速充電器も30年までに現在の約4倍の3万基を整備することとしています。

参考:2030年まで水素ステーション1000基、EV急速充電器3万基に増強…新成長戦略案に明記[新聞ウォッチ]

EVだけではなく水素ステーションの1000基への増設は現実に即した脱炭素化に向けた計画であり、急速充電器の3万基の整備は現状のガソリンスタンドの数が3万カ所あることから、ガソリンスタンドの業態変換を迫っていくのではないでしょうか。
新しい制度の実施や変革には必ず痛みは伴うものです。
しかし国民全員が幸せに生きていくことも国の責務です。
EV化にばかり目が向きがちですが、現在進行中のAIによる自動運転や隊列走行の実現も忘れてはなりません。
それらの技術は化石燃料で動くエンジンよりも電気のほうが相性が良い事も忘れてはならないでしょう。

国が示した『成長戦略実行計画』の素案、『グリーン成長戦略』がもととなって出来上がっている国交省の『総合物流施策大綱』の最新版が今年度発表されます。
そこで示される内容をよく読み解き、この先変わりゆく世にいち早くついて行かなければならないと思います。
運送業でのBtoCによる小口配送はEV小型トラック、長距離大量輸送にはFCVの中・大型トラックの流れが出来そうですが、これらに伴うエネルギーステーションの新設や社会インフラの再整備等が産業革命の再到来のようになり、低迷する日本産業の起爆剤となることを切に願いたいと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました