「MaaS(Mobility as a Service)」を語る上で、最も外せないモデルとなる国が北欧にあるフィンランドです。
フィンランドでは官民一体となってMaaSにおける積極的な取り組みがされており、世界のどの国よりも移動を楽に調べられて支払いも簡単にできます。
今回は、フィンランドがMaaSを発展させたきっかけとどのような取り組みをしてきたか、実際にどのようなサービスが広がっているのかを徹底的に解説します。
ぜひ最後までお読みください!
フィンランドってどんな国?
フィンランドはヨーロッパの北にあたる北欧にある人口551万人の国です。東京の人口が927万人なので東京に比べて約6割の人口となります。
フィンランドではオーロラが有名で、世界中からオーロラを観に観光客が訪れます。街並みや家や家具などの「北欧スタイル」もフィンランドから来ていて日本でもブームとなっています。
また、国民の幸福度が世界で一番高い国とされており、あらゆる点において見習うところの多い素敵な国です。
フィンランドが抱えていた課題
フィンランドは2021年現在世界を代表するMaaSの先進国となっていますが、そうなる以前は多くの交通問題を抱えていました。
フィンランドの移動手段の8割は自家用車によるものでした。特に都市部では日本を含めた他の先進国と同様に自動車の渋滞が大きな問題となっていました。
また、ドライバーの高齢化により、自家用車による事故も多発していました。これらの事象を日本と照らし合わせて考えてみると、ニュースで題材として取り上げられる事象が類似していることがよくわかります。
フィンランドでも現在の日本と同じような課題を抱えており、課題解決の必要があったということです。
MaaSによる交通問題の解決
多くの交通問題を抱えていたフィンランドは、2015年に運輸通信庁が交通問題の解決に動き出しました。
まず交通問題の解決に必要とされたのは都市部の交通の改善です。
都市部の渋滞をなくすために必要だと考えたのは、人々にもっと公共交通機関を利用してもらうことです。
そのために公共交通機関の運行スケジュール、遅延情報、料金、乗り場などを公開(オープンソース化)しました。それまで別々で区分されていた鉄道、道路、輸送の法律を、ひとつの法律としてまとめるなどの行政改革も積極的に行われました。
主体となって動いていたのは行政ですが、交通問題の解決にあたった委員会においては、利益を生み出すビジネスをベースとして考えられました。
こうしてフィンランドではMaaSを成功させるための土台を作っていったのです。
MaaSに関する動きや改革は、世界各地で行われています。各国でMaaSの差が生まれる要因・進み具合は、政府や行政が積極的かどうかによる要素が大きいと言えます。
フィンランドにおいては、行政が積極的にMaaSの発展のために動くだけではなく、ビジネスベースの土台を作って企業が参入しやすい環境を作り上げたことこそがMaaSが大きく発展した要因です。
Whimのサービス開始と解説
法改正や交通情報のオープンソース化を活用して、2016年にサービスが開始されました。
それが「Whim(ウィム)」というサービスです。
「Whim」は当時スタートアップだったMaaS Gloval社によって開発・運用されています。
ここでは、世界で初めてMaaSを実現させたWhimについて解説します。
Whimでできること
Whimではアプリ上で、指定した地点から目的地までの経路について公共交通機関・タクシー・レンタカー・レンタサイクルに至るまでの移動手段の候補を提示してくれます。Whimでは移動手段の候補や経路だけではなく、公共交通機関の遅延情報や渋滞情報も入手することができます。提示された候補の料金の決済も、Whimのアプリで支払い、完結することができます。
日本の経路検索アプリとの大きな違いは、Whimでは経路を検索し、候補から移動手段を決めた後、移動にかかる費用をアプリでそのまま決済することが可能な点です。
また、日本で交通検索サービスでは移動手段の候補に公共交通機関の情報が挙がってきますが、レンタカーやレンタサイクル・タクシーは候補として挙がってきません。Whimではレンタカーやレンタサイクル、タクシーも移動経路の候補として挙がってくるため、最速で最適な移動手段をアプリひとつで知ることができます。
Whimの料金について
Whimがフィンランドで多くの人に利用される理由に、便利に移動経路を検索できる機能のほか、魅力的な料金設定があります。
Whimの料金には
- 1. 月額払いによるサブスクリプション
- 2. 都度払いによる利用方法
の2種類が展開されています。
1. 月額払いによるサブスクリプション
Whimがフィンランドで多くの人に利用されるようになった理由は、その便利さと革新的な料金設定であると言えます。
Whimは月額払いによるサブスクリプションのプランを3つ展開しています。
月額払いのプランは
- ①「Whim Urban 30」
- ②「Whim Weekend」
- ③「Whim Unlimited」
と、利用する人に合わせて3つの価格のプランを展開しています。
それでは3つの料金プランとどのようなサービスを受けることができるのかを見ていきましょう。
①「Whim Urban 30」
Whim Urbanは月額62.7ユーロで利用できるWhimのサブスクリプションで最も安価なプランです。
プランの内容は
- HSL(ヘルシンキの公共交通機関を運用している会社)の公共交通機関が乗り放題
- シェアサイクルの30分までの利用が無料
- ヘルシンキ内のタクシーが12.5ユーロで3kmまで利用できる
- レンタカーが49ユーロで1日利用できる
登録から30日間HSLの公共交通機関が乗り放題になるほかにも、シェアサイクルの利用やタクシーやレンタカーの割引があるプランです。
②「Whim Weekend」
Whim Weekendは月額399ユーロで利用できるプランです。Whim Urbanと比べると料金は6倍以上高くなります。
Whim Weekendのプランの内容は
- HSLの公共交通機関が乗り放題
- シェアサイクルの30分までの利用が無料
- タクシーの利用が15%割引で利用できる
- 週末のレンタカーの利用が無料
Whim Urbanと比べてタクシーを15%割引で利用することができ、週末のレンタカーの利用が無料になるプランが追加されています。
車を持っていない方や、平日は通勤で公共交通機関を利用して休日はレンタカーを借りて買い物やお出かけをしたい方向けのプランとなっています。
③「Whim Unlimited」
Whim Unlimitedは月額699ユーロで利用できるWhimの最上級のサービスです。
Whim Unlimitedのプランの内容は
- HSLの公共交通機関が乗り放題
- シェアサイクルの30分までの利用が無料
- 3kmまでのタクシーの利用が80回無料
- レンタカーの利用が無料
料金は699ユーロと高額ですが、3kmまでのタクシーとレンタカーの利用が無料となっています。
このプランに入っておけば、自家用車を持つ必要がなく、プランのサービスのみで日常における移動を完結できるのがWhim Unlimitedの特徴です。
2. Whim to goによる都度払い
Whimには、普段は自家用車を利用する方や旅行でフィンランドを訪れた人向けに、都度払いのサービス「Whim to go」があります。
使用方法は、アプリでWhimをインストールして起動後、アプリでユーザー登録をしてクレジットカードの情報を入力します。登録が完了したら、Whim上で経路検索をして電車やバスなどのルートを決め、その経路のチケットを購入することができます。
ヨーロッパで公共交通機関を利用する場合は、経路により料金を払うよりも利用する時間と範囲で料金が決まっています。
ほかにもWhim to goでは、タクシーやレンタカーをアプリの地図上で検索して予約をすることができます。
サブスクリプションの月額払いのような割安な料金は期待できないですが、料金的なメリットはなくても最適な移動手段の決済・検索を1つのアプリで完結できるのはWhim to goの魅力であるといえます。
変化したフィンランドの交通事情
Whimを始めとしたMaaSの発展により、フィンランドの交通事情は大きく変化しました。
ドライバーの高齢化による事故の多発や交通渋滞に悩まされていたフィンランドでしたが、Whimのサービス開始によりその変化は数字として表れています。
首都のヘルシンキにおいてWhimを利用していた移動手段の変化は
前 | 後 | |
---|---|---|
自家用車の割合 | 40% | 20% |
公共交通機関の利用割合 | 48% | 74% |
出典:MaaS Grobal社
と利用する前と後では自家用車の利用割合が20%減り、公共交通機関の利用割合は26パーセント上昇しています。
フィンランドのMaaSへの積極的な行政介入とWhimという画期的なサービスの利用でフィンランドが抱えていた交通問題は解決へと進み、現在は世界で最初のMaaSの成功例として世界からも注目されています。
Whimを運用しているMaaS Global社は現在フィンランドでの成功をもとに、世界各地でMaaSに対する取り組みや実験を行なっています。
日本においても東京エリアと千葉県の粕の葉において実証実験を行なっており、日本でWhimのようなMaaSの先進的なサービスが利用できる日は近いのかもしれません。
フィンランド発祥のデリバリーサービス「Wolt」
フィンランドではUberEatsのようなフードデリバリーサービスも世界でいち早く展開されており、「Wolt」というフードデリバリーサービスが多くの人に利用されています。
MaaSによって人の移動に関してもいち早く世界の見本になっているフィンランドですが、LaaS(物の移動)に関しても長けているのがフィンランドの特徴の一つです。
Woltは2014年にフィンランドでサービスが開始され、2020年には日本に上陸しました。
Whimに引き続きWoltのような私たちの暮らしを豊かにするフィンランドのノウハウが、どんどん日本に輸入されています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は
- フィンランドの国柄
- 抱えていた課題
- 交通の問題解決の手順
- Whimのサービス
- フードデリバリーサービスWoltの紹介
を解説してきました。
この記事を読んで、世界で最もMaaSが進んでいるフィンランドについて詳しくなれたのではないかと思います。
日本にもどんどん進出してきているフィンランド初のサービスが、今後私たちの暮らしを大きく変化させてくれることは間違いないと言えます。
人の移動に関する最新の技術を知ることで、あなたにとっての移動における考え方が広がってくれれば幸いです。
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