【SCM事例】日本マクドナルドの「サプライチェーンマネジメント」

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『サプライチェーンマネジメント』、よく目にし、耳にもする言葉ですが、定義が何かと問われれば、答えに困る言葉の一つかもしれません。
単語の直訳で考えれば、『供給のつながりをマネジメントすること』となり、事例を踏まえればなんとなく全体像がつかめそうです。

消費者のニーズにもとづき、一番川上には原材料の生産があり、そこから流れ出し製品の生産加工、や保管、運送、包装や荷役などの流れのなか、最終的に運送され販売者を通じて消費者のもとに届きます。消費者の手元に届くまでの全体の情報を一元管理することが『サプライチェーンマネジメント』なのです。
そして、目的はその流れを最適化し、顧客に満足を与え、企業は高収益が得られることです。

しかしながら、『良いものを安心安全に』といううたい文句を当たり前に消費者に供給することは、事業者の規模の大小を問わずに簡単なことではありません。そして、サプライヤー(原材料や加工品の供給者)間での運送、サプライヤーから販売者や直接消費者への運送等、原材料の供給から始まり消費者の手元に製品が届くまでには『運送』は無くてはならない存在です。

バリューチェーンが一企業内での流れに対してサプライチェーンは複数企業の中での流れになります。
その複数企業の中に運送業者も含まれます。
最終的に消費者が最高の満足を得られるように、関係する複数の企業が無理や無駄のない効率化・最適化を実現させて最小限のコストで一連の流れを展開させることを追求します。

そのために各企業に最小限のコストを求めてくることでしょう。
しかしこれからの人口減少による労働力不足、ドライバー不足のなか、本当の安心・安全を求めるのであれば運送においても安易に価格競争での『安ければ良い』という流れにはならないはずです。
そこには長い時間の中での会社同士の付き合いによる人間関係もあるでしょうが、第三者である株主に対しても説明の出来る正当性が必要となってきます。

誰もが妥当だと納得できる正当な価格を生み出すのもサプライチェーンマネジメントの役割になると思います。
このサプライチェーンの中に組み込まれる『運送業』として、この仕組みをよくご理解していただき、納得いく利益がサプライチェーン内で分配されるようこれからの貴社の参考にしていただければ幸いです。

日本マクドナルドの『サプライチェーンマネジメント』

パティイメージ

2021年12月期の決算で2期連続の営業最高益を見込む日本マクドナルド、新型コロナウイルス禍にも負けることなく、テイクアウトやデリバリーという形で、販売が可能な業態であったことも幸いして業績を伸ばしています。

しかしこの好調な日本マクドナルドにも2014年に上海食品会社製チキンが期限偽装を行っていたことで大幅に売り上げを落とし、赤字を出した苦い経験があります。当たり前の安心安全がいかに大切なものであるかを裏付けた事件でした。この経験をもとにサプライチェーンマネジメントを見直して、現在日本最大規模の外食チェーンである日本マクドナルドはサプライチェーン全体の最適化を目指し、持続可能性を高めつつあります。
サプライチェーン本部が中心となり日本マクドナルドの物流改革を行い、日本のリーディングカンパニーとしてサプライチェーンの全体最適化のみならず、脱炭素社会を目指し、働き方改革の実現も目指しています。

具体的な日本マクドナルドのサプライチェーンを見てみます。
品質管理技術の向上とデジタル化による情報の一元管理化により、グローバル化しているサプライチェーンでも安全・安心は確保出来るようになりました。

日本全国にある約2900店舗への食材や資材の供給は国内13カ所の配送センターから納品されます。納品物のサプライヤーは国内外に250カ所あります。

そのなかバンズのみサプライヤーから直送で納品しています。
各アイテムが具体的にどこから納品されているかを見てみましょう。

  • ビーフパティ
    日本でも違和感の無くなったオーストラリア産およびニュージーランド産のビーフが使われています。
    広大な牧場で育てられた牛は厳しい安全基準のもと解体されて低温下のもとパッケージングされて日本に向けて低温輸送されます。
  • フィッシュ
    アラスカ、ベーリング海で水揚げされたスケソウダラはアラスカで一本一本骨まで丁寧に取り除いて切り身を箱詰め冷凍してタイの工場へ輸送され、カット・加工されています。
  • ポテト
    アメリカ、カナダ産のジャガイモが使われ、肥料と与える水の量を適切にコントロールし農薬使用は最低限にとどめています。
    工場でカット、下揚げし色も長さも徹底管理したものを箱詰めし、急速冷凍して輸送します。
  • レタス
    国内産を中心にレタスは世界的な管理基準であるGAP(農業生産工程管理)にマクドナルド独自のGAPを導入して、製造の中で食の安全をより確かなものにしています。
    季節により変わる産地はある時は長野県北佐久郡のレタス農家の畑からみずみずしさを保つため朝4時から収穫され、手作業で収穫されたレタスは高い鮮度のまま工場へ向けて出荷されます。
    工場では熟練スタッフにより検査され、ハンバーガー用に2種類にカットされ真空冷却機で冷却ののちパック詰めされて低温管理のもと輸送します。
  • エッグ
    なんと、100%国産卵の使用です。
    その中の卵の産地である宮崎県都城市の飼育場では鶏がリラックスできる環境を整えて美味しい卵を生産しています。
    品質管理を行うGPセンター(Grading & Packing Center)ではひび割れや汚れをチェックするばかりでなく、殻の中まで安全を確認しています。
  • コーヒー
    レインフォレスト・アライアンス認証を受けた南米の農園のアラビカ豆100%です。(レインフォレスト・アライアンス認証とは労働者に適切な労働条件を提供し、森林や生態系を守る基準を満たす認証です。)
    現地と日本で検査された豆はキーコーヒー九州工場へ運ばれ、豆によって細かく調整して焙煎します。
    そして、酸化を防ぐ小分け包装をして出荷します。

世界中から集まる製品は一度日本国内13カ所の配送センターに集荷され、仕分けして各店舗へ配送するのです。ここまですべてをサプライチェーン本部が一元管理して出荷されます。
なんと、毎日トラック400台分、年間で55.4万トン、距離にすると年間3200万km走ります。

強いサプライチェーンを構築するには

マクドナルドイメージ

揺るぎないサプライチェーンマネジメントを行うにはどうしても乗り越えなければならない壁があります。
それは『不測の事態』です。

ここ十数年の間、頻発する地震、風水害などの自然災害。そして、今回の世界を一変させてしまった新型コロナウイルスによるパンデミックなどです。これらの『不測の事態』への対応がサプライチェーンマネジメントの中に組み込まれることが出来るかどうかです。

日本マクドナルドも今回の新型コロナウイルスへの対応は初めての事であり、我々が知らないだけで、新型コロナウイルスによる様々な影響がこのサプライチェーンにもあったはずです。
それらの壁を乗り越えて最高収益に結びついたはずです。

日本マクドナルドは世界中のサプライヤーから納入される材料・加工品の質も量も一元管理しています。これは、日本における最大規模の外食産業の1社だから出来るとも言えます。
サプライチェーンの構築にはコストがかかります。一元管理のためのシステムを作り上げ、保守管理すること、そして一連の流れを把握できて判断の出来る人材の育成、中心で旗振りの出来るコンダクター的な人材が必要となってきます。
これらには相応のコストがかかってきます。
ある調査によると、サプライチェーンマネジメントの専門部署を置く日本の会社は300人という社員数を目安に、それ以上の社員数の大企業では70%の設置、300人以下の中小企業では40%の設置という結果が出ています。
どの企業もそれなりの必要性や実績は認めるものの、かかる費用が大きすぎて二の足を踏むというのが実態ということがわかります。

そして、これからサプライチェーンマネジメントを取り入れるならば、『不測の事態』に負けることのない強いサプライチェーンを構築していかなければなりません。
この新型コロナウイルスはある意味、誰もが予測できなかった災害です。
しかし一度経験した現在、未来に教訓として残さなければなりません。
運送業界も今後さらにデジタル化は進み、膨大な蓄積されたデータをAIが読み解き不測の事態への対応に導いてくれることでしょう。

サプライチェーンは途切れさすことは出来ません。
そのために、『不測の事態』の対応のために複数社の運送業者との取引も必要になるでしょう。
発注先のサプライチェーンを理解し、これまでの慣習であった固定された1社のみとの付き合いが複数社になっていくことの意味もご理解いただきたいと思います。
そして、これらのことを参考にしていただきこの先に時代に備えていただきたいと思います。

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